軽井沢辞典

2022.02.05

義務? お願い? 日本式行政について回るグレイゾーン

2018年に民泊新法が施工され、それまで野放しだった民泊に法の網がかかるようになり、それにつれて民泊施設の数も大きく減ったようです。

それまでゲストを宿泊させて対価を取るという行為は、旅館業法による許可行為でした。言い換えれば、旅館行為を行うことは原則禁止、免許許可を受けることで可能となる、ということです。民泊新法、正式名称では住宅宿泊事業法では、旅館免許を受けていない一般の住宅でも旅館行為が認められるという画期的なものでした。同時に、地方それぞれの実情を運用に反映させるために、県の判断による上乗せ規制規制を認めた点に特色があります。

具体的には、民泊新法では年間180日までの宿泊が認められていますが、これを市町村が県との協議の上、上乗せして規制できる立て付けとなっているのです。

軽井沢では町の民泊拒否宣言が有名です。

確かに軽井沢町は民泊を拒否したい意向のようですが、町が長野県と同意したことは以下の通りです。

”5,7,8,9月の繁忙期の民泊営業は禁止、同時に残りの月においても土曜日のみ可能”

軽井沢の正式な文書はこちらです。

これによると、”民泊施設の設置については、町内全域で認めないこととし”とあります。
しかしこれは先に上げた、軽井沢町と長野県との合意に一致していないように読めます。

実際、軽井沢町は、京都、白馬などと並んで民泊に否定的な地方自治体のトップランナーといっていいでしょう。そして、これらの町が、おしなべて観光客が押し寄せる、観光資源に富んだ場所であることは注目すべきです。

つまり、軽井沢、京都などにおいては、あえて民泊などしなくても観光客が来てくれるのだから、民泊によってこれ以上の人が来訪することはかえって害を及ぼす、つまりはオーバーツーリズムの観点から、反民泊の姿勢を取っていると考えられます。

これは理解できることです。

オーバーツーリズムと民泊の問題は深いので、また別の投稿で見てみることとしましょう。ここで注目したいのは、軽井沢の民泊拒否宣言と、長野県の決定とのズレです。

この問題に関しては、こちらの法律事務所が専門的な意見を載せられています。

つまり、軽井沢町の民泊排除基準は、何らかの法的な位置づけはない、つまり任意のお願いである、ということになります。

これは自然保護対策要綱と同じです。

軽井沢のほとんどの別荘地では、建ぺい容積率が2割に限定されています。同時に長野県により土地最低単位が300坪に設定されています。つまり、長野県に別荘を建てようと思ったら、最低300坪の土地を買い、そして8割は森や自然のままで残しなさいという考え方です。

これは法律による義務です。

しかし、では300坪の土地を買って、これはわたしの土地だからと全部の土地を開発してしまうことはどうでしょうか? 家を建てなくてもこれも景観の破壊のように思われます。そして軽井沢の場合、前述の自然保護対策要綱がこれを防ぐために作られたのです。

しかし、土地単位規制と異なり、この自然保護対策要綱には強制義務はありません、つまり持ち主が樹々の伐採を実行したら町は強制的に止めるための立法的な権限を持っていないのです。

民泊拒否宣言、自然保護対策要綱が法律的には、義務ではなくお願いである。

この問題は、日本の行政、立法、ひいてはなぜ日本ではベンチャービジネスが隆盛しないのか?などといった問題にもつながる興味深い点をはらんでいるように思えます。

つまり、日本で法律が作られる際に、具体的な合法、違法の定義があいまいなままで策定されることが多いのではと推測されるのです。その結果、まず国民の行動に規制がかかります。なぜなら、自分がビジネス上行おうとすることが果たして合法であるかどうか、判断が難しくなるからです。

最悪、違法行為が発生したのみなされて訴訟に至るとどうでしょうか? 法律があいまいであるということは、そのまま判決を下す裁判官の仕事を困難にします。事例を単純に法律に照らし合わせてもその可否が判断しにくいからです。実際、もし法律が明快に作られていたら、それこと判決作成の作業もAIによって自動化できるかもしれません。日本の法律があいまいであるのは、自分たちの仕事を守りたい法曹界の深慮遠謀ではないか、とのうがった見方さえしたくなってきます。

訴訟にまでいたらないとしても、あいまいな法律はおおきな行政裁量を生みます。法律を調べても自分がやろうとしている行為に対する判断がつきにくいので、そうなると、決定は行政の胸突き三寸となるからです。最悪の場合これは利権にさえつながりかねません。

もちろん、日本式に法律策定の際にあまり厳密にしすぎずに、裁量余地を残す利点もあるでしょう。しかし、日本人はどうも大岡越前の幻想にとらわれ過ぎているかもしれません。あいまいな法律に名裁判官が組み合わされれば、それは見事な裁量となることでしょう。しかし、反対に裁量行政などにつながることで、日本のビジネスの発芽を阻害する弊害さえあるということは理解しておく必要がありそうです。

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