軽井沢辞典

2022.10.26

軽井沢の冬を暖かく過ごさせてくれる立役者ー断熱材

軽井沢での家づくりは、寒さとの戦いでもありました。いえ、軽井沢がまだ”避暑地”出会った頃は、元々夏だけしか使わない前提であったので、寒さとの戦いは不戦敗であったようなものです。

”軽井沢の冬はね、どのようにしても寒いもんなんだよ” わたしが最初の家を建てた22年前に工務店のおっちゃんがうそぶいた言葉です。確かにこのころまで、冬を暖かく過ごすことができる家というのは現実的ではなかった。軽井沢のような寒冷地ではなおさらです。

このような状況が徐々に変わってきたのが1990年代の頃でした。当時は円高が追い風となって輸入住宅ブームが起きたのです。 今で頃日本は物価が安い国となりましたが、30年前は反対に地球一物価の高い国でした。それでいて、米国、カナダなどでは遥かに安い金額でそれでも暖かく過ごすことができる家が建てられていた。これではブームになるのは当り前です。

なぜ、日本の家は寒かったのか? これは日本の家が技術的に遅れていたというよりは、家づくりの哲学とでもいうべきものに原因があったと考えています。ご興味がある方は、”日本に家づくりにおける吉田兼好の呪いとは?” をご覧ください。

兼好法師は徒然草で”家づくりは夏をもって旨とすべし”と語っています。欧米の家がシェルターとしての考え方に基づいて、基本的には外界の影響を遮断することを第一義的に考えているのに対して、日本の家が風通りを重視しているのは、このような考え方によるものでしょう。

そもそも寒い家を暖かく過ごしたい、、そのような単純な願いから始まった家の断熱化は、その後果てしない論争を引き起こしましたが、それについてはまた日を改めて論じてみたいと思います。

さて一般的に使われている断熱材はグラスウールです。なぜ最も人気があるかというと値段が安いことが一番の理由です。反対にグラスウールの欠点を考えてみると、主に以下の2点を挙げることができます。
1.グラスウールは通常ビニールの袋に入れられて壁に充填される、そして入れるのは通常大工さんです。この作業の際に、どの程度まできっちりと隙間なく詰めてもらえるか=施工精度は大工さんのやる気と良心にかかってくるのです。また、北米のツーバイ住宅では壁が長方形の箱となっているのでグラスウールはぴったりとはまりやすいが、日本の在来工法で筋交いなどが使われているとそれが邪魔になり隙間ができやすい。
2.壁の中のグラスウールに湿気が入ると、グラスウールは湿気を吸収しないので水滴となる。そしてこの水滴は木材を腐らせてしまう。だからこそグラスウールはビニールでぴったりと覆われて湿気から保護されているのです。

さて、軽井沢の冬を暖かく過ごすためにチューダーハウスが選んだのは、セルロースファイバーです。これは主に古新聞を再生するなどして作られた繊維の綿みたいなものです。紙から作られたということは、おおもとは木材が材料ということです。

先にグラスウールの欠点を挙げましたが、この2点が翻ってセルロースファイバーの長所となっていることが面白いです。まず、セルロースファイバーは専門業者が空気の流れが逆向きな掃除機みたいなブロワで壁の中に吹込みます。そしてこの際に1平方メーター当50㎏にも達する密度で充填するのです。これはかなりパンパンなイメージです。専門業者が専門の機械を使って壁に吹込むことで、相対邸に施工精度の問題はかなり小さくなると考えて問題はないでしょう。

また、木質材料であるセルロースファイバーは湿気を吸ってくれます。そして、この特質ゆえに壁の中に湿気が侵入しても、セルロースファイバーが吸い込んでくれるのです。湿気の高い夏の間は湿気を吸い込み、そして冬に空気が乾燥する逆に湿気を放出する。このような働きを指して、吸放湿性と読んだりします。

セルロースファイバーが持つ吸放湿性のゆえに、セルロースファイバーで断熱した家では室内の湿気を壁の中に入れることに対して、グラスウールほどには神経質にならなくてすみます。だから、チューダーハウスではセルロースファイバーと室内をビニールで区切るいわゆるVapor Barrier-湿気止めを置きません。

この辺りは非常に繊細な問題で、セルロースファイバーであっても安全策として湿気止めを施工する業者もいます。しかし、長年チューダーハウスに住んできた私の実感として、梅雨の時期にしばらく訪れず家を締め切っていても家がかび臭くならないことを感じています。これはわたしの推測ですが、壁の湿気止めはなるほど室内の湿気が壁内の断熱材に侵入することを阻止してくれますが、室内側に微小な結露を生じることがあるのではないでしょうか? そして別荘がかびくさくなるのはこの湿気止めの表面の微細な水滴にカビが発生することが主原因ではないでしょうか?

しばらくの間締め切った別荘がカビ臭くなる問題は、皮肉にも家の高断熱・高気密化が進展してからひどくなってきました。壁に断熱材など何も施工されていない昔の別荘では、このようなことはありません。まあ、このような家では夏爽やかな分、冬は寒くて過ごせないでしょうが...

柱と梁の木材を外に出してデザインとするチューダーハウスでは、断熱材で家を外から覆う、いわゆる外張り断熱の手法を用いることはできません。ですので、壁にかなりの密度で充填して、そして施工精度が問題になりにくいセルロースファイバーはとても相性が良いのです。

湿気止めを施工せず壁の仕上げを漆喰などの塗壁で仕上げた場合、湿気は緩やかに壁の中に浸透することになります。欧米式に完全に自然をシャットアウトするわけでもなく、かといってすきま風すーすーの寒い家ではなく、全館暖房も可能なほどの断熱性を示してくれる...

チューダーハウスでセルロースファイバーは暖かい冬を実現する心強い立役者となってくれています。

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