軽井沢辞典

2021.10.08

軽井沢の理想の家って? #5 断熱

さて前回Skelton Infill、つまり構造と内装の区別に関して話しましたが、構造の次に来るのが断熱です。

というのも、断熱というのは壁や床の一部なのです。

皆さんは家の壁とは一体なんのためにあるのかを考えたことがあるでしょうか?

雨露、風をしのぐため?

道路の車の音などの防音?

何よりも外からの視線を遮ってプライバシーを確保することは重要な機能ですね。そして断熱は、外の雨や人の視線ではなく、外の温度を遮って快適な室内環境を作る上でとても重要です。

日本の伝統的な土壁構造

日本では上記のように、伝統的に壁には土が塗られてきました。しかしこれでは、夏はともかく冬がとても寒かったのは想像に難くありません。土の断熱性は低く、また気密性もないので、すきま風が入ってきて、室内でも温度は外とたいして変わらなかったことでしょう。

家の快適性を高める上で断熱はとても大切です。とりわけ、寒い軽井沢では尚更です。

軽井沢は長らく、避暑地と呼ばれてきました。これは、明治時代に軽井沢を見出した外国人宣教師たちは夏の暑さから逃れることを主な目的に軽井沢を訪れたという、歴史的経緯に寄ります。

しかし、時が流れ、今軽井沢に家を買い求める人で軽井沢には夏にしか来ない、と感がる人は少数でしょう。明治時代から約100年の時が経ち、住宅建築技術も進歩しました。家の断熱性能が上がるにつれて、寒い軽井沢の冬でも暖かく過ごせるようになるにつれて、軽井沢は避暑地から通年の保養地へと進化しました。

さて、昔の家の土壁は、土を見ずで練って壁に塗りました。裕福な家だと、上から漆喰を縫って綺麗な仕上げにしました。これも、石灰岩を水で練ってから塗ります。どちらも水を使うので、このような伝統的な壁のことを湿式と呼びます。

それに対して最近の家はほとんどが乾式です。つまりは水を使わないのです。土の代わりには石膏ボード、仕上げの漆喰の代わりにはクロスが一般的に使われます。

そして寒かった民家を暖かくするめに断熱材が壁に入れられ始めました。

断熱として最も一般的に使われているのがグラスウールです。

グラスウールはガラスのリサイクルから作られるようでとても安価であることから、今断熱材としては最も使われています。類似の断熱材として、鉄スラブ屑などから再利用されるロックウールがあります。

グラスウールは綿状の素材ですから、壁に詰め込まれます。これを専門用語で充填すると言い、このような断熱の施工方法を充填断熱といいます。

これらの断熱材はなんとなく工業製品っぽいですが、充填断熱材には自然素材もあります。例えば、セルロースファイバー、ウッドファイバー、そしてなんとセーターでおなじみの羊毛ウールも断熱材として使用されます。

このような断熱材のバリエーションはありますが、どちらも壁の中に充填するという施工方法では同じです。

さて、時を遡ること約20年前に、外断熱論争というものが沸き上がりました。

火付け役となったのは以下の2冊の本です。

これらの本が提起していた問題は、外断熱です。つまり、渋滞壁の中に詰め込まれていた断熱材を壁の外から貼るという、まったく新しい施工方法を提案したのです。

充填断熱から外断熱に移行するべきという考えの根拠には、熱橋があります。熱橋とは断熱の切れ目です。例えば木造だと断熱材を壁の中を柱と柱の間に充填されます。つまり柱の部分には断熱材がないのです。これを熱橋といいます。

厳密にいうと、史上最大のミステークはコンクリート造のマンションをテーマにしたものでした。コンクリート造では断熱は、壁の内側から発砲ポリウレタンなどを吹き付けて断熱する方法が一般的で、これは木造と違って壁の中に入れてるわけではないので、内断熱と呼ばれます。

この本の著者は、ドイツなどではコンクリート造の外側から板状のグラスウールを貼り付ける外断熱が一般的でこのような優れていると主張したのです。

コンクリートは重い素材であるので熱を蓄えます、つまり高い蓄熱性を持ちますが、断熱性能はそれほど高くありません。冬の寒い日にコンクリート打ちっぱなしの壁を触ってみるとこのことがよくわかります。高い保温性と低い断熱性、この2つの特性を考えるとコンクリート造の断熱材は、内からではなく外から施工する方が理にかなっています。しかし、未だに日本のマンションなどでは内断熱が主流のようです。

いい家が欲しい、木造住宅の外張断熱を推奨して、はるかに大きな論議を呼びました。

当時のこの新しい考え方に感化された人々が、充填断熱工法を攻撃したことも呼び水となって、当時新興してきたネット上で、熱き仁義なき戦いが繰り広げられました。著者の松井さんの主な論点は以下の通りです。

・充填断熱は柱が熱橋となるから断熱性能が落ちる。またグラスウールを充填する大工
さんがどの程度丁寧に詰め込んでくれるかは疑問が残る。それに比べて家全体を断熱材で
被う外張断熱では熱橋が生じない。

・断熱材を充填しないことで壁の中は空洞となる。基礎からこの空洞にかけて空気を循環
させることがで家が長持ち、また1年を通じて快適な住環境が維持される。

しかし攻められる側のグラスウールは長年、最も一般的な断熱材としての使用実績がある素材です。松井氏を筆頭とする外張断熱派と充填断熱派の論争は長らく続きました。

ただ、外張断熱にはポリスチレンのような固形の板を釘で外側から貼り付ける関係上、それほど厚みを取ることはできず、50㎜程度の厚さにとどまります。このこともあって、先進的なビルダーでは、外張と充填を組み合わせた付加断熱を施すこともあります。

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